大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(行ケ)64号 判決 1994年4月14日

東京都港区赤坂2丁目3番6号

原告

株式会社小松製作所

同代表者代表取締役

片田哲也

同訴訟代理人弁理士

米原正章

浜本忠

佐藤嘉明

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

中村友之

新延和久

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

「特許庁が昭和62年審判第3152号事件について平成4年1月16日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2 被告

主文と同旨

第2 請求の原因

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年4月30日、名称を「プレス装置」(後に「C型フレームプレス装置」と補正)とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和55年実用新案登録願第58193号)をしたが、昭和61年12月8日、拒絶査定を受けたので、昭和62年3月6日、審判の請求をし、昭和62年審判第3152号事件として審理され、昭和63年7月8日、出願公告(昭和63年実用新案出願公告第25040号公報)がされたところ、実用新案登録異議の申立てがあり、平成4年1月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年2月26日、原告に送達された。

2 本願考案の要旨

C形フレームプレス装置において、フレーム1の左右一体の側面板部材8、8における上部後側部分間に、パイプ部材より成りかつ当該プレス装置に装備されたクラッチブレーキ及びバランスシリンダに接続されるエアタンク11を介装すると共に、該エアタンク11により前記左右一対の側面板部材8、8を互いに連結したことを特徴とするプレス装置(別紙図面参照)

3 審決の理由の要点(争点に関する部分)

(1) 本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2) 昭和33年4月1日丸善株式会社発行の「プレス便覧」(甲第5号証、書証番号は当審の書証番号による。)には、プレス加工の説明及びプレス加工を行う機械並びに剪断機についての説明が記載されている。

東芝映像機器株式会社による証明書(甲第4号証)は、アイダエンジニアリング株式会社が製作した工番13400-0007のハイプロシャーなる剪断機を資産管理番号40407として昭和48年より伊勢崎工場で公然と使用していたとの東芝映像機器株式会社伊勢崎工場工場長山崎梯外1名の作成に係るものであるが、これには添付資料1として同社におけるハイプロシャーの写真及び添付資料2としてその構造説明書が添付されている(以下「引用例」という。)。

そして、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機(同社使用の機械品名SH1)について、平成2年9月28日に同工場において行われた検証によりその構造が次のようなものであると特定されている。

<1> 剪断機の前面に、上下運動により材料の剪断を行う剪断刃が備えられている。

<2> 剪断機の左右の側板の上部後側には、エアを貯留するパイプ状のエアタンクが設置されている。

<3> エアタンクには、外部のコンプレッサーからエアを導入するための外部導管及びエア圧を示す気圧計が取り付けられている。

<4> エアタンクは、左右の側板間を互いに連結するように取り付けられている。

<5> エアタンクは、剪断機の上部後側の一方に設けられたクラッチブレーキに接続され、エアタンクのエアによりクラッチブレーキの作動が行われる。

<6> エアタンクは、他に材料の支持装置用駆動装置にも接続され、支持装置の作動を行っている。

(3) 本願考案と引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の構造とを対比すると、両者は、フレームの左右一対の側面板部材における上部後側部分間に、パイプ部材より成り、かつ当該装置に装備されたクラッチブレーキに接続されるエアタンクを介装すると共に、該エアタンクにより前記左右一対の側面板部材を互いに連結した構造を有するC型状のプレス加工を行う機械である点で一致し、本願考案は「C型フレームプレス装置」なる名称の示すごとくプレス加工を行う機械のうちのプレス機械であり、「当該プレス装置に装備されたクラッチブレーキ及びバランスシリンダに接続されるエアタンク11を介装する」とされるのに対して、引用例記載ハイプロシャーなる剪断機はせん断機であり、エアタンクが接続されるバランスシリンダを有しない点で相違する。

(4) 前記相違点について検討する。

本願考案と引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の両者のいずれにおいても、エアタンクのエアによりクラッチブレーキの作動が行われている。そして、本願考案ではバランスシリンダにも接続されると特定される点で若干相違するものの、このバランスシリンダへのエア供給のための格別な構成が特定されているわけではない。

そうすると、前記プレス便覧にみられるように、いずれもプレス加工機械として同じ技術分野に属する機械である本願考案のプレス装置と、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機との間で、このエアタンクのエアの用い方において格別な違いはないとすることが妥当である。

したがって、C型フレームプレスの構成に対して、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機におけるエアタンクの構成を転用することに困難性は存在せず、プレス加工を行う機械の属する技術分野における当業者であれば、きわめて容易になし得た程度のことと認める。

また、証人山崎悌の証言によれば、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機が本件出願前公然と知られ、又は公然と用いられていたことが認められる。

したがって、本願考案は、本件出願前公然と知られ、又は公然と用いられた引用例記載のハイプロシャーなる剪断機におけるエアタンクの構成を転用することで、プレス加工を行う機械の属する技術分野における当業者が本件出願前きわめて容易に考案することができたものと認められる。

(5) 以上のとおり、本願考案は、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機及び前記プレス便覧に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4 審決の取消事由

審決の本願考案の要旨、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の構造、本願考案と引用例記載のハイプロシャーなる剪断機との一致点及び相違点の各認定並びに引用例記載のハイプロシャーなる剪断機が本件出願前に公然と知られ、又は公然と用いられたものであるとの認定は認めるが、相違点に対する判断は争う。

審決は、本願考案と引用例記載のハイプロシャーなる舅断機との相違点に対する判断を誤り、かつ本願考案の奏する顕著な作用効果を看過し、もって本願考案の進歩性を誤って否定したものであり、違法であるから、取消しを免れない。

(1) 取消事由1-相違点に対する判断の誤り

審決は、C型フレームプレスの構成に対して引用例記載のハイプロシャーなる剪断機におけるエアタンクの構成を転用することに困難性は存在せず、当業者であれば容易になし得た程度のことと認められると判断している。

しかし、この判断は、C型フレームプレスとハイプロシャーなる剪断機の作業時の応力のかかる位置の違いや、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機のエアタンクが剪断機に特有の横梁材としての機能を持つものであること等を看過してされたものであり、誤りである。

<1> ハイプロシャーなる剪断機について

引用例記載のハイプロシャーなる剪断機は、引用例の写真及び構造説明書並びに乙第2号証(カタログ)の3枚目の構造図から明らかなとおり、高さと比較して横方向の幅が長いフレーム構造であって、左右に配置された各側板は、主体部とその下方から前方に延びた突出部からなり、左右の主体部については円形の横梁材が溶接で結合され、左右の突出部についてはテーブルが溶接されることによって横長のフレーム全体の剛性が実現されているものである。

このようなフレーム構造において、左右側板の主体部の横梁材が溶接された部分の若干下方に上刃ホルダの基部が枢着されており、この上刃ホルダのピボット式駆動がなされることにより、上刃によって、ベッドの上に配置された材料を、一方の側板方向から他方の側板方向へ漸進的に切断することができるようにしたものである。

このように、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の横梁材は、剪断作業が行われない時に横方向に細長のフレームにおける両側板を結合するものであるのみならず、剪断作業時、上刃ホルダが材料の剪断のために枢動する際、その枢動基部から両側板にかかる強大な応力をその枢動基部の直上に溶接されていることによって支えるという、ハイプロシャーなる剪断機に特有の横梁材であり、この横梁材がエアタンクに兼用されているものである。

<2> C型フレームプレスについて

C型フレームプレスは、全体として縦長で横に幅の狭いフレーム構造であり、前方に略C字状の切欠部を有する両側板は、前記C字の下部端上にベッドが形成され、このベッド上に配置された下型(雌型)にベッドの上方部から上型(雄型)をクランク機構により一瞬の強い力を作用させるプレスであり、そのクランク機構はベッドの垂直上方に配置されているから、そのクランク機構作動時の強い応力は、左右一対の側面板部材の上部前側部に集中的に作用するものである。

そして、C型フレームプレスでは、作業及び整備点検の容易性のために、前方の開放、両側板の側面視C型状のくり抜き構造による開放のみならず、後方、特に中央後側部及び上部後側部についてもできるだけ開放することが一般的に期待されているものであり、また、上部後側部については、装置全体のバランスの点から、特に重い物を配置するべきではないということが当業者に知られていたものである。

<3> 引用例記載のハイプロシャーなる剪断機とC型フレームプレスの間には、以上のとおりの構造及び機能の違いがあるから、前者の構成を後者に転用することは当業者がきわめて容易に想到し得るものではない。

そして、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機におけるエアタンク、即ち横梁材を同じような機能を期待してC型フレームプレスに転用することを当業者が想到したとしても、エアタンクの配置箇所はC型フレームプレスで同等の機能を果たすことが期待される箇所、即ちプレス作業のための力の発生源であるクランクの近傍である両側板の上部前側部でしかない。

蓋し、C型フレームプレスでは一対の側面板部材の上部後側部分はC型フレームプレス特有の共振による弊害が生じる場所であっても、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機のように、その機械特有の作業応力が直接集中的に作用する場所ではない。またC型フレームプレスは作業時あるいは整備点検時の便のため、前方及び両側のみならず、後方特に中央後側部及び上部後側部についてもできる限り開放して欲しいという要望があり、更に、上部後側部については装置のバランスを乱すようなものを配置することは好ましくないことが当業者に知られていたものである。

このような位置に引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の横梁材としての機能を果たす程の径のエアタンクを配置することは当業者がきわめて容易に想到し得るものではない。

したがって、審決の相違点に対する判断は誤りである。

(2) 取消事由2-本願考案の作用効果の顕著性の看過本願考案においては、その構成により、装置のバランスに影響を与えることなく、両側板の上部後側部の剛性を現出し得る他、ハイプロシャーなる剪断機では生じないC型フレームプレス特有の両板側の共振に伴う振動及び騒音を防止する等顕著な作用効果を奏するものであるが、審決は、本願考案のこのような作用効果の顕著性を看過したものである。

引用例記載のハイプロシャーなる剪断機では、上刃の剪断力が一方の側板方向からかなり離れて配置されている他方の側板方向に時間をもって移動するので、側板の応力は一方の側板が最大から最小へ時間をもって変化すると同時に、他方の側板が最小から最大へ時間をもって変化するものであるから、両側板の共振に伴う問題は生じない。

一方、C型フレームプレスでは、全く同じ応力が比較的近接した両側板に同時に瞬間的に作用するものであるため、両側板の共振に基づく振動及び騒音の弊害が生じる。

本願考案では、C型フレームプレスの両側板の上部後側部をエアタンクをなしうる口径の部材を介装させたため、従来の小径のタイロッドを配した場合に比較して振動及び騒音防止に著しい効果があるものである。

また、本願考案では、振動減少が達成されたため、エア漏れの低減という相乗的効果も奏される上に、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機にはないC型フレームプレス特有のバランスシリンダについての圧力変動の低減も達成されるものである。

即ち、本願発明では、本来的には配置したくない位置とはいえ、パイプ状部材からなるエアタンクをC型フレームプレスの上部後側部分間に配することにより、一つの部材で、(a)エアタンクとしての効果、(b)C型フレームプレスのバランスに問題を生じない重量の強度部材としての効果、(c)幅が狭く、かつ、瞬間的に応力が作用するC型フレームプレスで特に問題となる振動の防止効果、並びに(d)クラッチブレーキ及びプレスに特有のバランスシリンダへのパイプの短縮に伴うバランスシリンダの圧力変動の低減、クラッチブレーキの応答性の向上の効果を奏するものである。

これらの作用効果は、ハイプロシャーという剪断機のエアタンクたる横梁材及び従来型のC型フレームプレスからは当業者が容易に予測し得ない顕著な作用効果というべきものである。

審決は、本願考案のこのような作用効果の顕著性を看過し、もって本願考案の進歩性を誤って否定したものである。

第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張

1 請求の原因1ないし3は認める。

2 同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1) 取消事由1について

原告は、本願考案のC型フレームプレスと引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の構成、機能の違いを挙げて、審決の前者の構成に対して後者におけるエアタンクの構成を転用することに困難性は存在せず、当業者がきわめて容易になし得た程度のことであるとの判断の誤りを主張する。

しかし、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の有する構成には加工等の該剪断機に特有なものと、クラッチブレーキ等の付属装置や計装関係等の汎用性のあるものとがあり、原告の主張は、前者については通用しても、後者については通用しないものである。

エアタンクは付属装置の動力源として作用するエアの貯留容器であるから、後者に属することは明白であり、当業者がこれをC型フレームプレスへ転用することを想到することはきわめて容易である。

プレス加工には、剪断、曲げ、絞り及び圧縮(鍛造)等の加工法があり(プレス便覧の「プレス加工」の目次)、剪断加工はプレス加工の中でも代表的加工である。

引用例記載のハイプロシャーなる剪断機は、剪断を行うものであるから、プレス加工を行う機械であるということができ、C型フレームプレスと技術分野を同じくするものである。

そして、審決認定の引用例記載のハイプロシャーなる剪断機のエアタンクに係る構成によれば、その構成により、(ア)剪断機の、特に左右の側板の上部後側部分への剛性と強度の保持、及び(イ)動力としてのエアの供給源としての作用をなすことは当業者であれば十分認識しうる。

そして、そのエアタンクに係る構成は、加工型や工具のように直接その加工に係わる等、剪断機特有の構成に直接関係するものではないから、剪断機以外に適用不可能なものではなく、エア供給対象が存在し、かつ左右の側板を有するフレーム構造のプレス加工を行う機械であれば、その加工の種類、機種更にはフレーム構造がC型か否かに係わらず、基本的に適用し得る技術であり、その適用により(ア)、(イ)の作用効果が同様に達成されることは十分認められる。

したがって、原告の前記主張は理由がない。

なお、原告は、仮に当業者が引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の横梁材の機能を持つエアタンクの構成をC型フレームプレスに転用することを想到するとしても、その配置箇所は装置の上部前側部分であり、本願考案のように上部後側部分に配置することを想到することはきわめて容易ではない旨主張する。

しかし、本願考案は、横梁材としての構成はその要旨ではなく、エアタンクとしての構成が要旨に関係するものである。

そして、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の左右の側板間の上部後側部分に設置されたパイプ状部材におけるエアタンクとしての機能は、横梁材としての機能が付随しなければ、その機能を奏しないものではなく、それぞれの機能は独立して作用し得ることは明白である。

したがって、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機のエアタンクが横梁材としての機能を伴っているとの前提のもとに、そのC型フレームプレスへの転用の容易性について検討する必要はなく、エアタンクとしての構成、機能のC型フレームプレスへの転用の容易性について検討すれば十分である。

(2) 取消事由2について

引用例記載のハイプロシャーなる剪断機は、そのエアタンクの構成により、(ア)剪断機の、特に左右の側板の上部後側部分への剛性と強度の保持、及び(イ)動力としてのエアの供給源としての作用を奏するのであるから、原告が主張する(a)のエアタンクとしての効果は当然、その他に(b)の強度部材としての効果及び(c)の振動防止の効果を奏することは明らかである。

(d)の効果については、クラッチブレーキとバランスシリンダの設置位置は本願考案の要旨には含まれていないから、その点で失当であるが、その点はさておいても、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機では、パイプ状のエアタンクとエア供給対象であるクラッチブレーキは、ともに剪断機の上部後側部分に設置されていて、近接しているから、接続パイプは短く、したがって、それに伴う効果、例えばクラッチブレーキの応答性の良好なことは当業者であれば予測し得るものである。

そして、プレス装置において、クラッチブレーキ及びバランスシリンダを装置上部に設置することは周知であり、このことはプレス便覧の244頁図3・9にも示されている。

したがって、当業者であれば、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機のパイプ状のエアタンクの構成をC型フレームプレスに転用すれば、バランスシリンダについても、接続パイプが短くてすむことに伴う効果として、バランスシリンダの圧力変動の低減の効果が奏されることは予測し得るものである。

以上のように、原告が本願考案のC型フレームプレスの独自の効果として主張するものは、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機及び前記周知事実から当業者が予測し得るものである。

第4 証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

また、審決の引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の構成、本願考案と引用例記載のハイプロシャーなる剪断機との一致点及び相違点の認定、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機が本件出願前公然と知られ、又は公然と用いられていたことは当事者間に争いはない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  本願考案について

成立に争いのない甲第3号証によれば、昭和63年実用新案出願公告第25040号公報(以下「本願公報」という。)には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果として次のように記載されていることを認めることができる。

(1)  本願考案は、C型フレームプレス装置に関する。

従来、この種のC型フレームプレス装置においては、別紙図面の第1図(従来例)に示すように、フレームを構成する、相対峙して立設する左右の板部材aを、ボルスタbの上方位置即ち当該フレームの上部前側において接続リブcで接続して剛性を持たせるようにしたものがあるが、フレームの上部後側A部分には接続リブ等がなく剛性が弱く、振動や騒音の発生源となり問題となっていた。

その問題の解決手段として、フレームの上部後側A部分における左右の板部材aを、第1図に示すようにタイロッドdで連結して剛性を持たせるように企図したものもあるが、意図どおりの効果を期待できなかった。

もっとも、タイロッドdの断面積を大きくすれば剛性の増大を図ることができるが、材料費が増し不経済であるばかりか、プレス装置全体のバランスがくずれ、装置の安定性に欠ける不具合が生じる。

一方、かかるプレス装置においては、第1図に示すように、当該プレス装置内に装備するクラッチブレーキe及びバランスシリンダfに加圧空気を供給するためのエアタンクgを必要とするものであり、このエアタンクgは、作業時あるいは整備点検時邪魔にならないようにするために、従来においては、第1図に示すように、プレス装置の底部に置くことが常識とされていたものであり、そのため、プレス装置下部に位置するエアタンクgとプレス装置上部に位置するクラッチブレーキe及びバランスシリンダfとを接続するエアパイプhが必然的に長くなり、そのエアパイプhの長いことに起因してバランスシリンダfの圧力変動の増加、クラッチブレーキの応答性の劣化、振動に基づくエア洩れ等が生じる不具合があった。

本願考案は、前記の如き事情に鑑み、フレームの上部後側部分の剛性の増大をはかり、しかも、バランスシリンダの圧力変動の低減、クラッチブレーキの応答性の向上、エアパイプの短縮による振動の減少によってエア洩れの低減を図る、経済的かつ合理的なC型フレームプレス装置を提供することを技術的課題(目的)とする(本願公報1欄11行ないし2欄25行)。

(2)  本願考案は、前項の技術的課題を達成するためにその要旨とする構成(実用新案登録請求の範囲記載)を採用した(本願公報1欄2行ないし9行)。

(3)  本願考案は、その要旨とする構成を採用したことにより、フレーム1の左右一対の側面板部材8、8の上部後側部分の剛性が向上され、変形防止、振動及び騒音の低減に役立つものであり、しかも、エアタンク11がフレーム1の上部に配置されることになって、当該プレス装置の上部に装備されているバランスシリンダ、クラッチブレーキに近づき、この結果これらを接続するエアパイプが短縮され、バランスシリンダの圧力変動の低減、クラッチブレーキの応答性の向上及び振動の減少によるエア洩れの低減に寄与し、かつ、エアタンクが吊手の代用として供することもできるという作用効果を奏する(本願公報4欄14行ないし25行)。

2  取消事由1について

原告は、引用例記載のハイプロシャーにあっては剪断時にかかる応力を支えるに必要な位置である上部後側部分に配置された補強部材たる横梁材がエアタンクを兼ねているにすぎないのに対し、C型フレームプレスにおいては、その位置は作業、整備点検の容易性の観点から開放しておく必要がある等両者の構成の違いを挙げて、審決が相違点に対してした判断の誤りを主張する。

引用例記載のハイプロシャーなる剪断機が剪断機であるのに対し、本願考案はプレス機であるという相違があるが、剪断機は、剪断のための刃を目的物に押圧してそれを剪断するものであるのに対し、本願考案のC型フレームプレスのようなプレス機は型を目的物に押圧して成型をするものであり、機械のする作業の基本的原理は共通しているものである。

そして、成立に争いのない甲第5号証によれば、審決引用のプレス便覧の目次(2頁ないし5頁)には、「プレス加工」の項に「せん断加工」、「曲げ加工」、「絞り加工」が含まれており、また、「プレス機械」の項に「クランク・プレス」(その中に「Cフレーム・プレス」が含まれている。)、「せん断機」が含まれていていることが認められ、技術文献においても、剪断機は広義でいうプレス機に含ましめられて解説されていることが認められる。

このように、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機と本願考案のC型フレームプレスとは技術的に極めて高い親近性を有するものであり、同一の技術分野に属するものということができる。

そして、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機は本件出願前公然と知られ、又は公然と用いられていたのであるから、それにより、本件出願前、剪断機の左右の側板をエアタンクで結合し、原告主張の横梁材(補強部材)としての機能とクラッチブレーキ等の作動のための動力たるエアを貯留するエアタンクとしての機能を果たさせるようにすることは、当業者にとって公知の技術手段となっていたということができる。

また、前1(1)認定の本願考案の技術的課題に関する本願公報の記載のとおり、本件出願前、C型フレームプレスの上部後側部分は、接続リブ等がないため剛性が弱く、振動の発生源となっていたが、断面積の小さいタイロッドで連結するようにしても、意図どおりの結果が出なかったのであるから、C型フレームプレスの上部後側部分の剛性を増大させるという技術的課題も当業者にとって公知のものとなっていたものである。

したがって、当業者が引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の横梁材とエアタンクを兼ねた構成から示唆を受けて、C型フレームプレスの上部後側部分において両側板をエアタンクで連結し、その部分の剛性を確保する補強部材としての機能とエアタンクとしての機能とを果たさせるようなことは、きわめて容易に想到することができたものというべきである。

原告は、これに対し、従来、C型フレームプレスの上部後側部分は作業及び整備点検の容易性のためにできるだけ開放する必要があり、また、装置全体のバランスの点から特に重いものを配置すべきではないことが当業者に知られていたとして、その容易想到性を否定する。

しかし、原告主張の点は、C型フレームプレスにおいて、上部後側部に補強部材を配置して剛性を増大させるとともに振動の発生を防止することと、作業、整備点検の容易性や装置のバランスを確保することのいずれの要請を重視するかという設計にあたっての選択の問題にすぎない。

そして、本願考案は、C型フレームプレスの作業、整備点検の容易性を犠牲にして(本願考案が、C型フレームプレスの作業、整備点検の容易性を確保しながら、剛性の増大、振動の防止等を図ったものでないことは明白である。)、剛性の増大、振動の防止等本願公報に記載されている作用効果を重視したものであり、本願考案のようにC型フレームプレスの上部後側部分を補強部材により十分な補強をする必要があること自体は、前記1(1)認定のとおり従来技術として本願明細書に記載されていることから明らかなように、本件出願前、当業者に知られていたものである。

そして、本願考案は、その補強部材に、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機と同様に、エアタンクとしての機能を兼ねさせたものにすぎない。

したがって、原告主張の点は、何ら、本願考案の構成の容易想到性を否定するものではない。

なお、本願考案のC型フレームプレスと引用例記載のハイプロシャーなる剪断機とで、前者のエアタンクはバランスシリンダにも接続されているのに対し、後者のエアタンクはそれに接続されていないことについて、審決が両者のエアタンクのエアの用い方に格別な違いはないと判断したことに対しては原告も実質的に争うものではなく、また、その判断に誤りがないことは明らかである。

以上のことからすると、引用例記載のハイプロシャーなる剪断機の横梁材を兼ねたエアタンクの構成をC型フレームプレスに転用すること、その際、その補強部材を兼ねたエアタンクの配置位置を本願考案のようにその上部後側部分にする等本願考案の構成を想到することは当業者にとってきわめて容易であったというべきである。

したがって、審決が相違点に対してした判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  取消事由2について

原告は、審決が本願考案の奏する作用効果の顕著性を看過した旨主張する。

前1(3)認定のとおり、本願公報には、本願考案の作用効果として、<1>上部後側部分の剛性の向上、<2>振動、騒音の低減、<3>エアタンクとバランスシリンダ、クラッチブレーキとを接続するエアパイプの短縮によるバランスシリンダの圧力変動の低減、クラッチブレーキの応答性の向上、<4>振動の減少によるエア洩れの低減、<5>エアタンクが吊手の代用となるということが記載されている。

<1>、<2>の作用効果は、C型フレームプレスに引用例記載のハイプロシャーなる剪断機と同様に、両側板間に補強部材たるパイプ状のエアタンクを配置したことから当然に生ずるものであり、当然予想し得るものである。

<3>の作用効果は、エアタンクを従来技術であるプレス装置の底部に配置することに代えて、よりバランスシリンダ、クラッチブレーキに近い上部後側部分に配置したことから当然に生ずるものであり、何ら格別のものではない。(なお、成立に争いのない甲第5号証によれば、プレス便覧244頁図3・9にプレス機が描かれているが、バランスシリンダ27、クラッチブレーキ24はプレス機の中程より上の部分に配置されていることが認められ、これによれば、プレス機において、バランスシリンダやクラッチブレーキが上部後側部分に近い箇所に配置されることは通常のことと認められる。)

<4>の作用効果も<2>の作用効果から生ずるものであり、当業者が当然予想し得るものである。

<5>の作用効果は単に副次的なものであり、また、補強部材となるパイプである以上、吊手として利用できることは当然であり、何ら格別のものではない。

したがって、本願考案の奏する作用効果は、C型フレームプレスの上部後側部分に補強部材を兼ねるエアタンクを配置したことから当然に生ずる作用効果であって、これらの作用効果を当業者が予想し得ないような顕著なものということはできない。

したがって、また、審決の本願考案の奏する作用効果の顕著性の看過をいう原告の主張は理由がない。

3  以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張はいずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例